サプライチェーン・BCP・セキュリティ管理
この章の到達目標
攻撃を防ぐことだけでなく、実際に侵害された場合の事業への影響、復旧の順序、必要な経営判断 まで説明できるようにする。
2023年度のCIサービス侵害・リスクアセスメント、2025年度の管理体制とレジリエンスに直結する。
1. 用語一覧
| 優先 | 用語・技術 | 科目Bで押さえるポイント |
|---|---|---|
| A | サプライチェーン攻撃 | 委託先、開発基盤、更新の配布経路を介した侵害 |
| A | リスクアセスメント | リスクの特定、分析、評価、対応 |
| A | 情報資産・脅威・脆弱性 | リスクの成立条件と影響の分析 |
| A | 攻撃シナリオ | 攻撃者の侵入手段、成立条件、被害の連鎖 |
| A | BCP / BCM | 事業継続計画と、継続的な管理活動 |
| A | BIA | 業務影響度分析、優先して復旧する業務 |
| A | RTO / RPO | 目標復旧時間・目標復旧時点 |
| A | バックアップ | オフライン・イミュータブル・復元テスト |
| A | 3-2-1バックアップ | 複数のコピー、媒体の分散、オフサイト保管 |
| A | 復旧手順・復旧訓練 | バックアップからの再構築、復旧の順序 |
| A | 委託先管理 | 契約条件、監査、インシデントの報告、再委託 |
| A | 脆弱性管理 | 資産の把握、優先順位付け、パッチの適用 |
| A | インシデント対応体制 | 指揮系統、初動、報告、外部との連携 |
| B | SBOM | ソフトウェアの部品構成、依存関係と脆弱性の追跡 |
| B | SCA | OSS・依存ライブラリの脆弱性の検出 |
| B | SLSA | ビルド・供給過程の完全性を高める枠組み |
| B | コード署名 | 配布元・成果物の完全性と秘密鍵の管理 |
| B | CI/CDのセキュリティ | ビルド環境、Secrets、実行権限、成果物の保護 |
| B | CVE / CVSS | 脆弱性の識別子・深刻度の評価 |
| B | EPSS / KEV | 悪用される確率の推定・実際に悪用が確認された脆弱性 |
| B | ISO/IEC 27001 | ISMSの要求事項、リスク管理 |
| B | NIST CSF 2.0 | Govern・Identify・Protect・Detect・Respond・Recover |
| B | ゼロトラスト | 継続的な検証、最小権限、アクセス制御(sc_7) |
| B | IT全般統制(ITGC) | アクセス管理、変更管理、運用管理 |
| B | 職務分掌 / SoD | 承認者と実行者の分離、不正・誤謬の抑止 |
| B | SLA / SLO | サービス水準の合意と運用の目標 |
| B | DR / DRサイト | 災害復旧、代替環境への切替え |
| B | ホット・ウォーム・コールドサイト | 復旧時間・費用・準備状況の違い |
| B | フェイルオーバー | 障害時の待機系への切替え |
| B | リスクの移転・受容 | 保険、外部委託、残留リスクの経営判断 |
| C | TPRM | 第三者・委託先のリスクの継続的な管理 |
| C | VEX | 脆弱性が対象製品に与える影響の表明 |
| C | in-toto / Sigstore | ソフトウェアの供給過程の証跡・署名の検証 |
| C | ISO 22301 | 事業継続マネジメントシステム |
| C | ISMAP | 政府情報システム向けクラウドサービスの評価制度 |
| C | サイバーレジリエンス | 攻撃を受けても事業を維持し、復旧し、適応する能力 |
2. サプライチェーン攻撃
2.1 3つの経路
| 経路 | 例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 委託先・取引先 | 保守事業者のリモート接続、子会社のネットワーク | 対策の弱い組織を踏み台にする |
| 開発基盤 | CI/CDサービス、ソースコードリポジトリ、ビルドサーバ | 正規のビルド工程で不正なコードが混入する |
| 配布経路 | ソフトウェアの更新サーバ、OSSのパッケージ | 正規の署名付きで多数の利用者に配布される |
2.2 CI/CDのセキュリティ(2023年度関連)
CIサービスには、本番環境へのデプロイの権限、クラウドの認証情報、署名鍵などの Secrets が集まる。CIが侵害されると、これらがすべて漏えいする。
| リスク | 対策 |
|---|---|
| Secretsの漏えい | 長期間有効な認証情報を置かない。OIDC連携で、実行のたびに短時間だけ有効な認証情報を発行する |
| 過剰な権限 | パイプラインごとに必要最小限の権限にする |
| 外部からの持込み | フォークからのプルリクエストでSecretsを使えないようにする |
| サードパーティのアクション・プラグイン | バージョンをタグではなくコミットのハッシュで固定する |
| 成果物の改ざん | 成果物に署名し、デプロイ前に検証する |
| 変更の承認 | 本番へのデプロイに承認を必須にする(職務分掌) |
漏えいが判明したときの対応:CIに登録していたすべてのSecretsを 失効・再発行 する。漏えいの期間中に、それらの認証情報が使われた形跡がないかを、クラウドやリポジトリのログで確認する。
2.3 ソフトウェアの完全性
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| SBOM | ソフトウェアに含まれる部品(ライブラリ、バージョン)の一覧。新しい脆弱性が公表されたとき、影響を受ける製品をすぐに特定できる。形式はSPDX、CycloneDX |
| SCA | 依存ライブラリの既知の脆弱性やライセンスを検査する |
| VEX | SBOMに含まれる脆弱性について、「その製品では影響を受けない」などの状態を表明する。対応の要否の判断を効率化する |
| SLSA | ビルドの来歴(Provenance)の記録や、ビルド環境の隔離など、供給過程の完全性のレベルを定めた枠組み |
| コード署名 | 配布物に署名し、配布元と完全性を保証する。署名鍵が漏えいすると、不正なプログラムにも正規の署名ができてしまうため、HSMで保管する |
| in-toto / Sigstore | 供給過程の各工程の証跡、署名と透明性ログ |
依存関係の混乱(Dependency Confusion)や、似た名前のパッケージ(タイポスクワッティング)にも注意する。社内のパッケージは社内のリポジトリを優先して参照するよう設定する。
3. 脆弱性管理
3.1 流れ
- 資産の把握:ハードウェア、ソフトウェア、バージョン、公開しているか、管理者は誰か
- 情報の収集:ベンダーの公表、JVN、CISAのKEVカタログ
- 影響の判断:自社の資産が該当するか、設定上の前提を満たすか
- 優先順位付け
- 対応:パッチの適用、回避策(設定の変更、機能の無効化、接続元の制限)
- 確認:適用の確認、再スキャン
3.2 優先順位付けの指標
| 指標 | 内容 | 使い方 |
|---|---|---|
| CVE | 脆弱性の識別子 | |
| CVSS | 深刻度(基本値・現状値・環境値) | 基本値だけで判断せず、自社の環境で評価する |
| EPSS | 今後30日以内に悪用される確率の推定 | 深刻度が高くても悪用の可能性が低いものとの区別 |
| KEV | 実際に悪用が確認された脆弱性の一覧 | 最優先で対応 |
優先順位の考え方:インターネットに公開している、実際に悪用されている、重要な資産に関係する、の3点が揃うものを最優先にする。VPN装置やファイアウォールなど、境界の機器の脆弱性は特に優先度が高い。
パッチをすぐに適用できない場合は、回避策と、悪用された場合の検知策(ログの監視強化)を併用する。
4. リスクアセスメント
4.1 用語
- リスク は、情報資産・脅威・脆弱性が揃ったときに成立する。
- リスクの大きさ = 影響の大きさ × 発生の可能性
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| リスクの特定 | 資産、脅威、脆弱性、既存の管理策を洗い出す |
| リスクの分析 | 影響の大きさと発生の可能性を見積もる |
| リスクの評価 | 受容基準と比較し、対応の優先順位を決める |
| リスクへの対応 | 低減・回避・移転・受容 |
| 対応 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 低減 | 管理策で発生の可能性や影響を小さくする | MFA、バックアップ |
| 回避 | リスクの原因となる活動をやめる | カード情報を自社で保持しない |
| 移転(共有) | 他者と分担する | サイバー保険、外部委託 |
| 受容 | 対策をとらずに受け入れる | 経営層が承認 し、残留リスクとして記録する |
外部委託しても、説明責任は委託元に残る。リスクの移転で問われやすい論点である。
4.2 攻撃シナリオに基づくリスク分析
資産ごとに脅威を並べるのではなく、「攻撃者がどこから入り、何を経由して、何に到達するか」という シナリオ で分析する方法。
例:「保守事業者のリモート接続用の認証情報が漏えい → 保守用のVPNから工場のネットワークに侵入 → 制御システムのサーバを暗号化 → 生産停止」
シナリオの各段階に対して、防止・検知・対応の管理策が存在するかを確認する。
5. 委託先管理
| 段階 | 確認すること |
|---|---|
| 選定 | セキュリティ体制、認証の取得状況(ISMS、ISMAPなど)、過去の事故 |
| 契約 | セキュリティの要求事項、インシデント発生時の 報告の期限と連絡先、監査の権利、再委託の条件(事前の承認)、契約終了時のデータの返却・削除 |
| 運用 | 定期的な評価・監査、アクセス権の見直し、リモート接続の管理 |
| 終了 | アカウント・接続経路の削除、データの削除の確認 |
再委託:委託先がさらに別の事業者に委託していると、委託元から見えないところで情報が扱われる。再委託を事前承認制にし、再委託先にも同等の管理を求める。
リモート保守の接続:常時接続ではなく必要なときだけ有効にする、接続元を限定する、MFA、操作を記録する、委託先ごと・担当者ごとにアカウントを分ける(共用アカウントを使わない)。
TPRM:取引先・委託先のリスクを、契約時だけでなく継続的に管理する活動。
6. BCPとDR
6.1 BIA(業務影響度分析)
業務ごとに、停止した場合の影響(売上、法令、顧客、安全)と、停止が許容される時間を分析し、優先して復旧する業務 を決める。
| 指標 | 意味 | 何で決まるか |
|---|---|---|
| RTO | 停止から どれだけの時間で 復旧するか | 業務が停止に耐えられる時間 |
| RPO | どの時点まで のデータを復旧するか | 失ってよいデータの量 |
| MTPD | 最大許容停止時間 | これを超えると事業の継続が困難になる |
RPOが「1時間」なら、少なくとも1時間ごとにバックアップ(または複製)が必要になる。RTOとRPOが短いほど、費用が高くなる。
6.2 DRサイト
| 種類 | 準備状況 | 復旧時間 | 費用 |
|---|---|---|---|
| ホットサイト | 本番と同等の設備が稼働し、データも同期している | 短い(数分〜数時間) | 高い |
| ウォームサイト | 設備はあるが、データの復元や設定が必要 | 中程度 | 中程度 |
| コールドサイト | 場所と電源などだけ | 長い(数日以上) | 安い |
ランサムウェアとDR:本番とDRサイトのデータをリアルタイムで同期していると、暗号化されたデータも同期される。同期とは別に、過去の時点に戻せるバックアップが必要である。
6.3 バックアップ
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 3-2-1ルール | 3つのコピー、2種類の媒体、1つはオフサイト(遠隔地) |
| オフライン | ネットワークから切り離す(テープ、取外し可能な媒体) |
| イミュータブル | 一定期間、変更・削除ができない設定(WORM、オブジェクトロック) |
| 認証の分離 | バックアップシステムの管理者アカウントをADと分ける。ADが侵害されてもバックアップを削除されない |
| 世代管理 | 侵入から暗号化までの潜伏期間を考慮し、十分に古い世代まで保持する |
| 復元テスト | 実際に復元できることを定期的に確認し、復元にかかる時間がRTO以内かを測る |
ランサムウェアの攻撃者は、暗号化の前にバックアップを探して削除する。「バックアップを取っている」だけでは不十分で、攻撃者の手が届かないこと を設問では問われる。
6.4 復旧の順序
ランサムウェアからの復旧では、次の順序を考える。
- 侵入経路を塞ぐ(脆弱性の修正、侵害されたアカウントの無効化)。塞がずに復旧すると再び侵入される
- 認証基盤(AD)を復旧・健全化する:他のシステムが依存しているため
- BIAで優先度が高い業務のシステム
- その他のシステム
- 復元するバックアップの中にマルウェアや、攻撃者が作成したアカウントが含まれていないか確認する(侵入時期より前の世代を選ぶ)。
- 再構築したシステムは、監視を強化した状態で接続する。
7. 管理の枠組み
7.1 NIST CSF 2.0
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| Govern(統治) | 方針、役割、リスク管理の戦略、サプライチェーンのリスク管理(2.0で追加) |
| Identify(識別) | 資産、リスクの把握 |
| Protect(防御) | アクセス制御、教育、データの保護 |
| Detect(検知) | 監視、異常の検知 |
| Respond(対応) | インシデントへの対応 |
| Recover(復旧) | 復旧計画の実行 |
7.2 その他の枠組み
| 枠組み | 内容 |
|---|---|
| ISO/IEC 27001 | ISMSの要求事項。リスクアセスメントに基づき管理策を選び、適用宣言書にまとめる |
| ISO 22301 | 事業継続マネジメントシステムの要求事項 |
| ISMAP | 政府がクラウドサービスを調達する際の評価制度 |
| サイバーセキュリティ経営ガイドライン | 経営者が認識すべき原則と、担当者に指示すべき重要項目 |
7.3 IT全般統制と職務分掌
| 統制 | 内容 |
|---|---|
| アクセス管理 | アカウントの申請・承認・定期的な棚卸し、退職者の削除 |
| 変更管理 | 本番環境の変更の申請・承認・テスト・記録 |
| 運用管理 | ジョブの監視、バックアップ、障害対応 |
職務分掌:開発者が本番環境に直接リリースできる、承認者と実行者が同じ、という状態は、不正や誤りを見逃す原因になる。CI/CDで承認の工程を必須にすることも職務分掌の実装である。
7.4 SLAとSLO
- SLA:サービス提供者と利用者の 合意(稼働率、復旧時間、報告の期限)。違反時の取決めを含む。
- SLO:提供者が内部で設定する運用の 目標。
- 委託先との契約では、セキュリティインシデントの報告期限をSLAに含めることが重要。
8. 経営判断として問われること
科目Bの管理系の設問では、技術者として経営層に何を提示するかが問われる。
| 判断 | 提示すべき情報 |
|---|---|
| システムの停止・ネットワークの遮断 | 被害が拡大する見込み、停止による業務への影響、代替手段 |
| リスクの受容 | 残留リスクの内容、発生した場合の影響、受容する期間と再評価の時期 |
| 対策への投資 | 低減されるリスク、費用、導入までの期間 |
| 公表・報告 | 法令上の報告義務、顧客・取引先への影響、公表の時期 |
9. 設問を読むときのチェックリスト
- 守るべき 業務・資産 は何か。その RTO / RPO は
- 外部の組織(委託先、クラウド、OSS)との 接点 はどこか
- 委託先との 契約・権限 は適切か
- 侵害されたとき、バックアップは攻撃者から守られているか
- 復旧の 順序 と、その前に塞ぐべき侵入経路は
- 誰が 判断・承認 するのか
~Yu Tokunaga