横断領域 暗号・クラウド・法務

Aug 4, 202518 min

この章の位置付け

重点5テーマだけでは、科目Bの出題範囲を完全にはカバーできない。暗号・クラウド・法務は、どの大問にも部品として登場する。この章は 必須の横断知識 として扱う。

領域優先重要用語詳しくは
ネットワークATCP/IP、NAT/NAPT、FW、ACL、プロキシ、TLS、DNS、DNSSEC、DoH、IPsec、IKEv2、SSL-VPN、ZTNAsc_4
ネットワークBVLAN、802.1X、ARP・DHCPスプーフィング、IDS/IPS、NDR、WAF、リバースプロキシsc_4
メールASPF、DKIM、DMARC、アライメントsc_4
メールBSTARTTLS、SMTPS、S/MIME、MTA-STS、DANE、BEC、メールヘッダーの分析sc_4
暗号AAES、RSA、ECC、ECDSA、ECDH、SHA-2、HMAC、共通鍵・公開鍵暗号、鍵交換、電子署名、証明書この章
暗号BAEAD、AES-GCM、前方秘匿性、鍵のローテーション、OCSP、CRL、証明書チェーン、TLS 1.3この章、sc_3
クラウドAIAM、最小権限、責任共有モデル、設定不備この章
クラウドBCSPM、CASB、CWPP、CNAPP、Secretsの管理この章
法務・ガバナンスB個人情報保護法、漏えいの報告、委託先の監督、システム監査この章

1. 暗号:目的から選ぶ

科目Bでは、暗号アルゴリズムの内部構造ではなく、目的に対して適切な技術を選べるか が問われる。

目的技術注意点
機密性(大量のデータ)共通鍵暗号:AES鍵の共有方法が課題
機密性+完全性AEAD:AES-GCM、ChaCha20-Poly1305同じ鍵でnonce(IV)を 再利用してはならない
鍵の共有鍵交換:ECDHE(一時的な鍵)相手の認証は別途必要(証明書、署名)
完全性(改ざんの検知)ハッシュ関数:SHA-256単独では改ざん者がハッシュ値も作り直せる
完全性+送信者の確認(共通鍵)HMAC鍵を共有する者同士では否認防止にならない
完全性+真正性+否認防止デジタル署名:RSA、ECDSA、EdDSA公開鍵の真正性は証明書で保証する
パスワードの保存Argon2id、bcrypt、scrypt、PBKDF2ソルト、計算コスト(sc_3)

1.1 よく問われる区別

  • ハッシュ値とHMACの違い:ハッシュ値は誰でも計算できる。改ざんした者がハッシュ値も計算し直せば検知できない。HMACは鍵がなければ計算できない。
  • HMACと署名の違い:HMACは送信者と受信者が同じ鍵を持つため、「受信者が作った」可能性を排除できない(否認防止にならない)。署名は秘密鍵を持つ者しか作れない。
  • 暗号化と署名の鍵:公開鍵暗号で暗号化するときは 受信者の公開鍵、署名するときは 送信者の秘密鍵 を使う。
  • 前方秘匿性:一時的な鍵交換(ECDHE)を使うと、長期の秘密鍵が漏えいしても過去の通信を復号できない(sc_4)。
  • ECC:RSAより短い鍵長で同等の安全性が得られる。

1.2 危殆化と移行

危殆化しているもの移行先
MD5、SHA-1(署名用途)SHA-256以上
DES、3DES、RC4AES
RSA 1024ビットRSA 2048ビット以上、ECC
TLS 1.0 / 1.1、SSLTLS 1.2 / 1.3

耐量子計算機暗号(PQC):大規模な量子コンピューターが実用化されると、RSAや楕円曲線暗号が解読される可能性がある。NISTはML-KEM(鍵カプセル化)、ML-DSA・SLH-DSA(署名)を標準化した。今の暗号通信を記録しておき、将来解読する攻撃(Harvest Now, Decrypt Later)への備えとして、長期間秘密にすべきデータから移行を検討する。どのシステムがどの暗号を使っているかを把握し、アルゴリズムを切り替えやすくしておくこと(クリプトアジリティ)が重要である。


2. クラウドのセキュリティ

2.1 責任共有モデル

責任IaaSPaaSSaaS
データ、アカウントの管理利用者利用者利用者
アプリケーション利用者利用者事業者
OS、ミドルウェア利用者事業者事業者
物理、ハイパーバイザー事業者事業者事業者

どのサービスモデルでも、データとアカウント(IAM)の設定は利用者の責任 である。クラウドでの事故の多くは、事業者側の問題ではなく、利用者の設定不備によるものである。

2.2 IAM

要素ポイント
最小権限ワイルドカード(全操作・全リソース)での許可を避ける
ルートアカウント日常的に使わない。MFAを設定し、利用を監視する
長期間有効なアクセスキーソースコードやCIへの直書きが漏えいの原因になる。ロールによる一時的な認証情報に置き換える
サービス間の連携ワークロードにロールを割り当てる。外部のCIとはOIDC連携で一時的な認証情報を使う
権限昇格IAMのポリシーを変更できる権限、ロールを引き受ける権限を持つと、自分に管理者権限を付与できる

2.3 典型的な設定不備

  • ストレージ(オブジェクトストレージ)の 公開設定 による情報漏えい
  • 管理用のポート(SSH、RDP)をインターネット全体に公開
  • 監査ログ(API呼出しの記録)を無効にしている、保存期間が短い
  • メタデータサービスへのアクセスが、SSRFで悪用できる設定(sc_2)
  • 使っていないリソースが残っている(DNSのCNAMEと組み合わさったサブドメインテイクオーバー、sc_4)

2.4 クラウド向けのセキュリティ製品

製品役割
CSPMクラウドの設定を継続的に検査し、設定不備を検出する
CWPP仮想マシン・コンテナなどのワークロードを保護する
CNAPPCSPMとCWPPなどを統合する
CASBSaaSの利用状況の可視化(シャドーIT)、データの持出しの制御
Secretsの管理認証情報・APIキーを一元的に保管し、ローテーションする

3. ゼロトラスト

「社内ネットワークの内側なら信頼する」という境界型防御をやめ、すべてのアクセスを都度検証する 考え方。

原則内容
明示的な検証利用者、端末の状態、場所、リスクを、アクセスのたびに評価する
最小権限必要なリソースに、必要な期間だけアクセスを許可する(JIT)
侵害を前提とする侵入された場合の被害範囲を小さくする(マイクロセグメンテーション)、監視と記録

構成要素:IDaaS(認証の一元化と条件付きアクセス)、端末の管理(MDM、EDR)、ZTNA、SWG・CASB(SASEとして統合)、ログの集約と分析。

境界型の限界を問う設問:VPNで接続した後は社内のすべてのサーバにアクセスできる構成で、1台が侵害されると横展開を止められない。ゼロトラストの考え方では、アプリケーション単位でアクセスを制御し、端末の状態を継続的に確認する。


4. 生成AIのセキュリティ(補強)

業務システムへの生成AIの組込みは、Webアプリケーションの問題として出題される可能性がある。

リスク内容対策
プロンプトインジェクション利用者の入力や、AIが読み込む外部の文書に含まれる指示によって、意図しない動作をさせるAIの出力を信頼せず、権限を持つ操作の前に検証・承認を挟む
過剰な権限AIに連携したツールが、利用者が持つ以上の権限で動作するAIが呼び出すAPIでも、利用者本人の権限で認可を検証 する(sc_2 の認可と同じ構造)
情報漏えい入力した機密情報が学習に使われる、他の利用者の応答に出る利用規約の確認、入力してよい情報のルール、DLP
出力の扱いAIの出力をそのままHTMLやSQLに埋め込む通常の入力と同様にエスケープ・プレースホルダー

5. 法務・ガバナンス

5.1 個人情報保護法の漏えい等の報告

次の場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知 が義務になる。

  • 要配慮個人情報の漏えい等
  • 財産的な被害が生じるおそれがある個人データ(クレジットカード番号など)の漏えい等
  • 不正の目的によるおそれがある漏えい等(不正アクセス、ランサムウェアなど)
  • 1,000人を超える個人データの漏えい等

報告の期限:

報告期限
速報事態を知った後、速やかに(おおむね3〜5日以内)
確報30日以内(不正の目的によるおそれがある場合は 60日以内)
  • 漏えいが 確定していなくても「おそれ」がある段階で報告の対象になる。ランサムウェアで個人データを含むサーバが暗号化され、情報が持ち出された可能性を否定できない場合が典型。
  • 委託先で漏えいが起きた場合も、委託元に報告の義務がある。委託元は委託先を 監督する義務 を負う。

5.2 その他の法令

法令科目Bでの論点
不正アクセス禁止法他人の識別符号の無断使用、アクセス制御の回避。識別符号を不正に取得・保管する行為、フィッシングサイトの開設も処罰の対象。アクセス管理者には防御措置の努力義務
不正指令電磁的記録に関する罪いわゆるウイルス作成罪。正当な理由なく作成・提供・供用すること
サイバーセキュリティ基本法国・地方公共団体・重要インフラ事業者などの責務
能動的サイバー防御に関する法律(2025年成立)重要な基幹インフラの事業者によるインシデントの報告、政府による通信情報の利用やアクセス・無害化の措置。段階的に施行される
電気通信事業法通信の秘密。通信の内容を監視する場合の利用者の同意
刑事訴訟法証拠としての電磁的記録の扱い

5.3 システム監査

  • 監査人は、監査の対象から 独立 していなければならない。
  • 監査の結論は、監査証拠(ログ、記録、インタビュー)に基づく。
  • 例:「アクセス権の棚卸しを定期的に行っている」ことを確かめるには、棚卸しの実施記録と、その結果に基づいて権限が削除された記録を確認する。

~Yu Tokunaga